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ぎくっ。
「矢野からの報告書によると、彼には他の使用人よりも高い給料を出す契約をしているね。それは何故?」
「えっと……」
まずい。真田さんのことがとうとうバレた。
いや、バレてないはずはないんだけど、今までは忙しかったから問い詰める暇がなかったというだけだったんだろう。
「実は、真田さんの弟さんが重い心臓病にかかっていて、死にそうだったのを知ったからどうしても助けてあげたくて……」
「なるほど。慈悲の心で?」
「そうなの! 真田さん、すごく貧しくて彼自身も体を壊しそうだったから、うちに誘ったの。死にそうな人を見過ごすことなんて出来ないでしょ? お願いだから雇ってあげて」
私は両手を合わせて父を拝んだ。
雇うと言ってもらわないと困る。真田さんを今更解雇するなんてできない。
「優しい心を持つことはいいことだ」
父の言葉でパッと笑顔になりかけた私に、父は続けてこう言った。
「しかし、それでは経営者にはなれない。慈善事業で雇用していたら何人かの貧しい人々は救えるかもしれないが、会社はたちまち潰れてしまうよ」
「そんな……」
「愛姫。もうお前も16になる歳なんだからもう少し考えて行動しなさい。わがままを言えば何でも通るという考えはそろそろ捨ててもらわないと困る」
思いがけない厳しい言葉に、私は泣きそうになった。
たしかに、今まではそういう考えだったところはある。改めなくてはいけないと素直に思う。
だけど、今回だけは譲れない。
「わがままはもう二度と言わないと約束するから、今回だけは見逃して。お願いします……!」
私は必死で頼み込んだ。
父は腕を組んでしばらく考えていたけど、やがて眼鏡を耳に掛け直して私に言った。
「どうしても彼を雇いたいと言うのなら、私にメリットを示しなさい」
「メリット?」
「彼を雇って良かったと、私に思わせて欲しい。今から一週間以内に何か結果を出させなさい。それで彼を正式に雇用するかどうか決めることにしよう」
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