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約束の一日
たった一週間の間に、真田さんのメリットを示す。
そんなことが本当にできるのかどうか分からなかったけど、私は父からの課題を受け入れるしかなかった。
非協力的になった矢野にはアドバイスを求めることもできなかった。そうして途方に暮れているうちに、とうとう約束の日曜がやってきた。
◇
「昨日は50本だって言わなかったか?」
「いいえ。150本です」
私の部屋の窓の下に広がる花壇の前で、矢野と真田さんが睨み合っている。
彼らの足元には育苗ポットに入ったひまわりの苗が150本分並んでいた。
「姫がどうしても夏に花壇でひまわりを見たいとおっしゃっているのですよ。畝は作ってありますので、ここに30センチ間隔で植え替えるだけで結構です。ひまわりは本来移植を嫌う花です。下手に植え付けるとのちに弱る可能性がありますので一本一本慎重に。ポットから苗を取り出したら根鉢を崩さずに植えてくださいね。あとは腐葉土を隙間に入れて、最後に土を被せてください。よろしいですね?」
「この広さを、俺一人でやるのか」
「はい。今日中に終わらなければ残りは明日でも構いませんよ。ただし、その場合は勤務時間の18時までいてくださいね。もちろん、今日中に終われば終わった時点でお帰りになって構いませんが」
無理だろう、と矢野は嘲笑うような笑みを浮かべていた。
一本植えるのに5分かけたとしても750分かかる計算になり、半日は確実に潰れる。現在は朝の8時で、12時間後は夜の8時だ。とても一日で終わる仕事量じゃない。
「土木工事で土には慣れているでしょう。せいぜい頑張って働いてください。姫のために」
「またあの性悪お嬢の嫌がらせか……」
憎々しげに眉を顰めると、真田さんは時間が惜しいとばかりに動き出した。
私はそれを2階のバルコニーから見つめていた。
彼の作業を見守れることがせめてもの救いだ。
まだ五月なのに今日は25度以上の夏日になると予想されている。
彼が無茶をしないように、ずっと見守っていようと思った。
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