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真田さんの表情が驚きに変わった。
真っ直ぐな視線が恥ずかしくて、私はちょっと横を向いた。
「……俺に?」
「あなたしかいないじゃない。早く受け取ってよ」
ドキドキする。
こんなもんいらねえとか余計なお世話だって言われちゃうかもしれないと思うと、怖くて彼の顔が見られなかった。
手の震えが止まらない。
お願い。伝わって、私の気持ち。
沈黙の時間が何分にも感じられた、その時だった。
「お嬢」
「な、何?」
「ずっと言おうと思っていたんだけどさ」
真田さんが真面目な声で言うから、一瞬、悪い予感がした。
おそるおそる正面を向くと、彼は可愛い上目遣いで私を見つめて言った。
「……この前は、無理やり部屋に入って……ごめん」
「えっ?」
耳がおかしくなったのかと思った。
真田さんが私に謝るなんて。
「よく考えたら、俺が悪かったと思って……。あんたがあんなに嫌がっていたのに入るべきじゃなかった」
「そんなことをずっと気にしてたの? も、もしかして、それで私に顔を見せないようにしていたとか?」
「だって、気まずいだろ、お互い」
呆然としてしまう。
最近、真田さんが私の顔を見ると逃げ出していたのは、私への謝罪が気恥ずかしかったから? それと、私への気遣い?
私の変態行動に引いてたわけじゃなかった……んだ。
「ぷっ」
安堵と嬉しさとキュンが同時に襲ってきて、思わず私は吹き出した。
「……笑うことないだろ。こっちは真剣に」
「私のことを考えてくれていたのね、ずっと」
「違う……」
真田さんは少し目を泳がせた。
「どうしたらいいのか、分かんなかっただけだ」
キュンキュンしている私の手からタオルとペットボトルを受け取り、彼が無言で首筋の汗を拭う。照れているのか、こっちを見ようとしない。
嬉しすぎて、今度は泣けてきた。
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