告白

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 走りながらまた思う。  愛姫は何がしたかったんだろう。  ホストクラブに乗り込んできて、自分を拾った。  弟を誘拐して、自分を雇った。  一日中働かせたくせに、勝手に心配して、倒れた。  何もかもが矛盾しているように思える。  変態だからで済まされてきたけど、本当にそうなのか?  悪役令嬢、宮藤愛姫。    彼女の自分を見る眼差しがどこか気になる。  あの眼差しを、真田は前にどこかで見たような気がしていた。    駆け込んだ公園の中には、誰もいなかった。  江藤ゆみはもう帰ってしまったのか。  古びた鉄柱の上に乗せられた丸い時計は午後5時55分を指していた。ずっとその時間で止まったまま、誰も動かしていないみたいに。  真田は脱力して、近くにあったベンチに座った。  彼女に会うために自分は一日頑張ったはずだった。目的が失われて、疲労だけが募る。  江藤ゆみもまた謎の多い女だ。  真田は不良から一度だけ彼女を救った。気まぐれに。夜勤明けで疲れていたから放っておきたいところだったが、不良に囲まれてもなお凛としていた彼女の後ろ姿に何かを感じたのだ。  それは彼女の信念だったのか。  どんな外見であれ、自分は自分と決して卑屈にならない気高さを感じた。  真田はそれを、くだらない暴力や嘲りに穢されてはならないと思った。  ただ、あの時はそこまで自分の行動を分析できていたわけじゃない。  だから気まぐれだ。ちょっと気になったからだ。理由というほどの理由はなく。  それから銭湯の前で再会するまですっかり忘れていたのだから、やはり気まぐれだったのだろう。  いつの間にか彼女のペースに巻き込まれ、家まで連れて行くことになり、弟と笑い合う姿を見て、なんだかこいつら家族みたいだなと思った。  家族のあたたかさなんて真田はほとんど覚えていないというのに。  
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