告白

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 真田の家族は十年前にすでに崩壊している。  悠が生まれて一年後のことだった。  悠には生まれつきの心臓の病があり、手術が必要と言われて全財産を手放した両親は、生活のためにそれぞれ働きに出かけた。  真田もまだ小学生になりたての頃だ。  父は車好きだったため長距離トラックの運転手をしていた。母は専業主婦だったが、昼も夜も不規則にアルバイトをするようになり、両親のいない間の悠の世話は真田が一人でしなくてはいけないことも多かった。  大変だったけれど、あの頃はまだ良かった。  悠はおとなしくて可愛い弟だった。  父は真面目で責任感の強い人だった。  母は賢くて優しい人だった。  けれども、ある日突然、母が消えた。  理由はよく分からない。  父は自分を責めていた。  貧乏だったから悪いんだ、と。  母を幸せにしてやれなかった自分が悪いんだ、と。  母のことは探すなと言われた。  もしどこかで見かけても絶対に追うなと言われた。  理由はお前がもう少し大人になったら話すと父は言った。  しかし、結局その約束は叶えられなかった。  この七年後、父が運転中に意識を失い、そのまま海に落ちて死んでしまったからだ。休憩もよく取らずに長距離を走り続けていたため、意識障害を起こしたのだろうと警察は言っていた。  真田が13歳、悠が8歳の時だった。  父は両親と縁を切っていたため、幼い弟と二人で児童養護施設に引き取られることになったが、そこには体の弱い悠をいじめる輩がいたので一年後には元の家に二人で戻ってきた。  悠は自分が守るしかないと思った。  父が加入していた保険金と生活保護を受けての暮らしが始まって不安だらけの中、真田は時々母のことを思い出すようになった。  母がいてくれたらもう少しマシな生活ができていたんじゃないだろうか。  二人の子供も夫も捨てて、母はどこへ行ったのだろうか。  なぜ父は母を探すなと言ったのか。  父がいなくなった今、頼れるのは母だけだ。  だが、父の言葉が正しかったと後に真田は気づくことになる。  母を探したりするべきではなかった。  母はすでに父とは正反対の男と再婚していたのだ。  そこは宮藤家ほどの資産家とは言えないけれど、有名な家具メーカーの社長の家だった。
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