告白

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 真田の母は元々、資産家の家に生まれたらしい。  だが父と出会ってそれまでの暮らしを捨てた。  ところが、いざ自分が働かざるを得ない状況になってみると昔の境遇が懐かしくなったのだろう。  実家に戻って、資産家の男と再婚する道を選んだというわけだ。    それを知ったのは新聞配達のバイト中に見た経済新聞の紙面のコラムだった。そこに例の社長の談話が載っており、そのプロフィールから母の名前を見つけたのだ。彼らの結婚の時期が母の消えた時期と一致していたので、まさかと思って少し調べたらすぐに母の実家のことが分かった。  母は間違いなくその社長と再婚していた。  そこから推測して、こう結論づけた。  母は貧乏が嫌になり、父を捨てた。  真田も、悠も、全て見捨てて、自分だけ幸せになった。  資産家の女なんて、信じられない。  そんなに貧乏が嫌だったのか。苦労するのが嫌だったのか。  捨てられたのが自分だけならまだ許せた。  でも幼かった悠まで捨てるなんて。  その後の苦労を何も知らずに、よくも。  暮らしに追われて忘れかけていた怒りが、宮藤愛姫との出会いでふと蘇ってきた。  あんな奴ら信じられるか。  誰も信じられるか。  一人でいい。  人の温もりなんて知らなくていい。  今までずっと、そうやって生きてきた。  それなのに。  あのペットボトルの水は冷たかった。  真田は公園の片隅にあった水飲み場を見つけた。  フラフラと移動して、緩み切った水栓を捻る。丸い円の蛇口から弱々とした水が盛り上がる。  ゆらゆらと光る水面に手をかざすと、汚れた指先に絡まった土が生ぬるい水と共に流れた。  気持ちいいとも不快だとも言い難い温度。  誰かがここにいたら、共感して笑ってくれただろうか。    もしも江藤ゆみなら。  彼女ならきっと家族のように笑ってくれるんじゃないかと思っていた。  
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