金なんかいらねえよ

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 え?   私は瞬きをした。  今のは……私に言ったのだろうか。  自問自答している間に、不良仲間たちは真田に恐れをなして逃げ出した。胸ぐらを掴まれていた不良も、解放された途端に「覚えてろ!」と捨て台詞を吐いて逃げ出した。  どうやら口ほどにもない人達だったようだ。  彼の行いの善悪はともかく、私はこの人に助けられたらしい。 「あ、ありがとうございました!」  私は元気にお礼を言って頭を下げた。だが、その方向にもう彼の姿はなかった。  あれ? と驚いて辺りを見回すと、不良たちが阻んでいたこの道とは全く違うルートに向かっていくそれらしい長身の後姿が見える。  邪魔だ、道を開けろと言っていたのに。  そこで私は気がついた。  彼は用もないのに、わざわざこっちに来てくれたんだ。  私が困っていると知って、放っておけずに来てくれたんだ。  私が彼を見て汚いだの野蛮だのと思っていた時、彼はただ私を助けるという優しさだけを考えてくれていたんだ。  こんなにも見すぼらしい姿をした私でも、関係なしに。 「ちょ、ちょっとお待ちください!」  もっときちんと、礼をせねば。  私はダッシュで追いかけていって、彼の前に回り込んだ。 「あの、助けていただいて、本当にありが──」 「ふわあーあ」  私の言葉は彼のあくびで遮られた。とても長いあくびだった。ぽかんとしていると、あくびを終えた彼とようやく目が合った。  とても眠そうなしょぼしょぼした目で、先ほどの恐ろしそうな鬼神の如き迫力は一切ない。 「誰?」  面倒くさそうに一言、彼はそう言った。
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