告白

8/11
前へ
/159ページ
次へ
 どんなに自分のことをブスだと思ってんだ、と真田は思った。  絶対にそんなことはないのに、彼女がそう思い込んでいることが悔しい。 「顔で嫌いになったりするわけないだろ」  ゆみは悲しそうに首を横に振る。 「なります。もう分かっているんです。だから、メガネは外せません。もし顔を見られたら、私……真田さんとは二度と会えなくなると思います」  真田は瞬きをした。  顔を見られたくらいで二度と会えないとはどういうことだろうか。   「鶴の恩返しかよ」  真田は彼女と銭湯で再会した時のことを思い出した。  彼女はあの時、不良から助けられた恩を返しにきたツルです、と言っていた。  昔話では、恩返しに来た鶴は正体を隠して人間の女の姿で会いに来ている。そして本当の姿を見られた時、去るのだ。  メガネを外して素顔を見せた彼女は、昔話の鶴のように真田の前から消える覚悟だというのか。  そんな話は、真田には受け入れ難かった。 「何を悩んでいるのか知らねえけど、俺はあんたがどんな顔だろうと驚かないと思う。心配しすぎだよ」 「でも……」  真田はまだ怖がっているゆみに近づいていき、彼女の頭を自分の胸に抱き寄せた。  彼女の体が驚きで硬直するのが分かった。 「心配しすぎだ」 「真田さ……」 「顔なんてどうでもいい」  壊れそうな彼女を優しく抱きしめると、切なさで胸が一杯になった。   「どうでもいいから……いなくなるなんて言うなよ」  さっき感じた孤独に、もう自分は耐えられないと悟った。  この温もりが愛しい。  ずっとそばにいてほしい。  真田は目を閉じ、切ない声で呟いた。 「好きだ」
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加