告白

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 木々が静かに葉を揺らした。  気づけば、ゆみは真田の腕の中で微かに震えながら泣き声を漏らしていた。 「どうした……?」  驚いて腕をほどくと、ゆみはポロポロと涙を零しながら「嬉しくて……」と呟いた。 「真田さんのこと、私も好きです……。ずっと、好きでした……」  なんて純粋な涙だろうと真田は思った。見ているこっちまで胸が痛くなる。  初めて人から愛された。  想いが通じた。  今まで感じたことのない幸せを手にしたのだと思った、その時だった。 「だけど、ダメなんです」  ゆみは泣きじゃくりながら言った。真田の息が一瞬止まった。 「今の私じゃ──ダメなんです。真田さんを絶対に傷つけちゃうから……」 「どうして──」 「ごめんなさい……」  じりじりとゆみが後退る。真田から離れていく。 「ゆみ」  真田は思わず彼女の手首を掴んだ。  華奢な細い手首はそれだけで折れそうな気がした。  ダメって何だ。  傷つけるって何だ。  そんな理由じゃ、何も納得できない。  愛しい気持ちが止まらない。  真田はもう一度ゆみを引き寄せ、彼女にキスをした。  彼女の涙が溢れ、真田の頬を濡らした。  切なさを絞り出した結晶のような涙。  好きなのに、どうして彼女は泣いているのか、分からない。  夜風が吹いて彼女の三つ編みを揺らした。鼻先でほのかに彼女の髪が匂う。  その瞬間、真田は思い出した。  この匂い。    花壇で抱き止めた、宮藤愛姫の匂いと同じだ。  まさか……。 「お嬢──?」  唇を離して真田が呟くと、ゆみは顔を覆って背を向けた。 「さよなら……」  
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