告白

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 彼女が泣きながら公園を走り去っても、真田は動けなかった。  衝撃が彼をその場に縛り付けていたからだ。  自分が気づいてしまったかもしれない重大な出来事に、文字通り頭を抱える。 「どういうことだ……?」  江藤ゆみと宮藤愛姫が同一人物だとしたら。  江藤ゆみが頑なに顔を見られるのを嫌がっていた理由が分かる。  不細工だからじゃない。  自分が愛姫だという正体がバレるからだ。    そこまで考えて、真田はうまく息ができなくなった。  いや、まさか。  髪の匂いがたまたま似ていただけだ。  無理やりにでも違うと言いたがる自分が頭の中にいる。  けれども、そこで真田が再び思い出すのは──真田を何時間もバルコニーで見守っていた愛姫の姿と、真田の作業が止まるのを気遣って近くの木陰で下ろせと言ったこと、そして別れ際のあの眼差しだった。 『……真田さん、私』  何かを言いかけた彼女の熱い眼差しが、塩焼きそばを悠と三人で囲んだ真田の古アパートで見せた江藤ゆみの涙目に似ている。  いや、瓜二つだと真田は気づいた。   「お嬢……だったのか」  騙されていた。  とは、ならなかった。  さっきの涙を見てしまったからだ。  あれは絶対に彼女の本心だ。  演技じゃない。  だとしたら。  なんてことだ、と真田は叫び出したくなった。    今までの出来事が彼の頭の中で、一気に一本の線で繋がる。  どうして今まで気づかなかったのか、不思議だったくらいに。  愛姫が工事現場で親しげに話しかけてきたのは、真田が不良からゆみを助けたからだ。  バイトをクビになった真田をゆみが泣きながら心配したのは、愛姫が重機を現場に送ったからだ。彼女は単純に、真田を助けようとしたのに違いない。  ホストに成り下がろうとしていた真田を、彼女は悪役になりきってまでなりふり構わずに救い出そうとし、悠を攫ったフリをして病院に入院させた。    悪役令嬢、宮藤愛姫。  その正体は、真田陽を一途に想う純情なお嬢様だった。
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