告白

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「馬鹿野郎が……」  彼女の簡単な嘘にも気づかず、今まで彼女を憎いとさえ思っていた自分に無性に腹が立ってきた。  真田の金持ち嫌いが、愛姫に嘘を吐かせ続けた原因だということも分かりかけてきた。  愛姫に謝らなければ。  今までのことを全て。  そして、もう一度彼女に今の気持ちを伝えなければ。  真田はようやく顔を上げた。  とっくに姿が見えなくなっていた愛姫を追いかけて、公園を飛び出す。すると、公園の出口あたりで真田の足が何かを踏み潰した。  暗闇で気づかなかったが、そこにメガネが落ちていた。  愛姫がゆみのフリをする時にかけていたメガネに違いない。厚いレンズのおかげなのか、踏んでもヒビは入ってなさそうだった。  しかし、フレームが少し歪な形になってしまっている。  このことも謝らなくてはいけない。  真田は大事にそっとメガネを拾い上げ、宮藤邸に向かって走った。  すっかりと陽が落ちた空。  宮藤邸は何事もなかったかのように静かに聳え立っている。上り始めた月の一部を隠す、洋館のシルエット。  改めて、巨大な屋敷だ。  愛姫は日本でトップクラスの資産家の令嬢なのだ。本来なら、真田と出会う世界線などなかったはずだろう。  傷だらけの手、泥にまみれた制服を着た自分とのギャップに怖気付きそうになる。    本当にゆみは愛姫だったのか……?  さっきの出来事は全部夢だったんじゃないかと真田が自信をなくした、その時だった。   「真田さん!」    執事の矢野が玄関から飛び出してきた。まだ門の外側にいた真田は、彼の剣幕に驚いてしまった。   「姫を──姫を知りませんか⁉︎」 「は……?」 「は? じゃありませんよ、寝ぼけた返事をしないでください!」  矢野は鉄門扉を苛立たしそうに叩いた。 「先ほどお出かけになったまま、まだお帰りにならないんです! てっきり真田さんと一緒にいるものと思っていたんですが──」 「お嬢、帰っていないのか?」  真田は目を丸くした。  さよなら、と泣きながら背を向けた三つ編みの背中が彼の頭に浮かぶ。  正体を知られて消えていった昔話の鶴のように。  宮藤愛姫は、忽然と彼らの前から姿を消した。
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