消えたお嬢様

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消えたお嬢様

「こんなことになるなら、行かせなければよかった……!」  執事の矢野はそう言って真田を睨んだ。 「一体、姫に何をしたんです⁉︎」 「何って──」  真田はさっきの場面を思い出す。  江藤ゆみの姿をしていた愛姫に告白をし、彼女にキスをした。  その直後に彼女は泣きながら去った。   「その様子ですと、姫の隠し事に真田さんは気づいてしまったんですね」  真田の表情だけで何かを読み取った勘のいい執事はため息をついた。 「やっぱり、ゆみはお嬢だったのか?」  真田はまだどこか半信半疑でいたのだが、矢野はうんざりした顔で「そうですよ」と認めた。 「私は必死で止めたのですが、どうしてもあなたに会いに行くんだと泣かれてしまいまして。どうせ、正体を明かした姫をあなたがこっぴどく振ったのでしょう? ド貧乏のくせに私の姫を傷つけるなんて、なんて生意気なことをしてくれたんですか」  ド貧乏のくせに、という言葉が真田に刺さった。  確かに、なんてことをしてしまったんだと思う。  その時は正体を知らなかった──とはいえ、真田の行動で彼女が動揺して逃げたことは間違いない。  自分のせいだ、と真田は思った。  ギリギリのバランスで保っていた彼女の精神を真田が崩壊させてしまった。   「姫は多少頭の弱いところはありますが、心はとても純粋で傷つきやすいんですよ! それなのに今まであなたからド変態だの露出狂だのとレッテルを貼られて、どれだけ悲しんでおられたことか」 「待て。それはお前が」 「言い訳など聞きたくありません! 姫が消えたのは全部あなたのせいですからね!」  矢野はとにかくイラついていた。  愛姫を引き止められなかった自分への苛立ちもそこにはあったのだろう。  門を出て行こうとする矢野に、真田は「どこへ行く?」と声をかけた。 「まだその辺をウロウロしているかもしれません。姫の鈍臭い足ならきっとそう遠くへは行っていないはずです」 「俺も探す」 「どのツラ下げて言ってんですか」  矢野はナイフのような目で真田を見た。 「もうあなたは引っ込んでてください。二度と姫の前にその貧乏くさい顔を近づけないでいただきたい!」
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