消えたお嬢様

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「そうはいかねえよ」  真田は即座に言い返した。 「お嬢は俺のせいで消えたんだ。引っ込んでろって言われて素直に引っ込んでいられるか」 「……邪魔者が」 「何か言ったか」 「何でもありません」  矢野は傷ついた愛姫を誰よりも先に発見して慰め、あわよくば真田から彼女を奪おうとしていたのではないかと思われた。  緊急事態もチャンスに変えるしたたかな男だ。 「それでは、真田さんは西側を探してください。私は東側へ行ってみますから」 「分かった」  門の前で別れて数十メートル離れた頃のことだった。  真田の胸ポケットに妙な振動が起こった。手を入れてみると、愛姫の落としたメガネのフレームが揺れている。  不思議に思っていろいろ触っていると、どこからか『姫、今どこです?』と声がした。  「何だこれ……?」  真田が思わず声を出すと『何であなたがそれを持っているんです?』とメガネがしゃべった。 「矢野か?」  驚く彼に、ため息まじりで矢野が言った。 『さっきの場所に戻ってください』  一分もせずに再会した矢野は、不機嫌そうに手を差し出した。 「返してください」 「その前に、これは一体何なのか説明しろ」  真田も負けじと彼を睨む。 「お前ら、このメガネで連絡しあってたな? ゆみがタイミング良く俺の前に現れていたのはそういうことか?」 「姫が望んでしていたことではありません。元々は姫に悪い虫がつかないようにと雅臣様がこれを装着することを義務付けていたのです。まあ、結局は特大の悪い虫がついちゃいましたけどね」  俺のことか、と真田は憤慨する。 「あと、お前やっぱり俺の知らない間にお嬢と連絡を取って先に迎えに行くつもりだったろ。そうじゃなきゃさっき俺の目の前で電話してたはずだよな?」 「いちいちうるさい虫ですね。そんなことはどうでも良いじゃないですか」  矢野はうるさそうに真田の手からメガネを取り上げる。 「それよりも、まずいことになりました。メガネがここにあるということは──姫との連絡がつきません。早く姫を見つけ出さないと……」 「見つけ出さないと?」  矢野は暗くなった空に浮かぶ月を見上げて呟く。 「姫が、迷子になります」  
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