消えたお嬢様

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「迷子……」  真剣な顔で言うことか。と真田は思ったが、矢野はますます真剣になって続けた。 「姫はこの十五年間、ほとんど外の世界のことを知らずに生きてきたんです。そんな方が、夜道に飛び出してまっすぐに帰ってこられると思いますか? それに、姫は今、素顔でいらっしゃいます。あんなに可愛い女子高生が一人でフラフラしていたら、姫の正体が宮藤愛姫だと知らぬ者だって攫いたくなっちゃいますよ。とにかく他人を疑うということを知らないお方なんですから、家に連れて行ってあげると言われたら何も考えずにノコノコついて行ってしまうに違いありません」 「他人を疑うことを知らない? お前がそばについていたのに?」 「どういう意味ですか。私が口から出まかせ出放題で他人を騙すことなど屁とも思わない冷血人間だとでも言いたいんですか?」  自覚があるのだろうか。矢野は真田を憎々しげに睨んだ。 「私は姫の清い心をお守りするための盾となり、穢らわしいものからあの方を必死で遠ざけてきたんです! そのためなら悪にでもなります。(そし)りでも何でも受けますよ。それが私の正義です。文句ありますか?」 「いや」  正直に言えば、真田は矢野という人間が嫌いではなかった。  矢野には信念がある。どこもブレていない。その根底には愛姫への揺るぎない愛があるのだと真田は気づいていた。  こんなに良い男がそばにいながら、愛姫はなぜ自分などを好きになったのだろうか。真田にとってはそれが疑問だった。 「このメガネに姫の行き先のヒントが残っていると良いのですが」  矢野は自分のスマホを取り出し、操作し始めた。 「メガネに、どうやって」 「このメガネには録画機能があるんです。私のスマホに映像を転送して見ることができるので、とりあえず三十分前に時間を戻して再生してみましょう」 「録画……⁉︎」  真田は冷や汗を背中に感じた。  メガネにそんな機能があるなら、自分が愛姫に告白したりキスしたりしたシーンも撮られているはずだからだ。 「このメガネは公園の入り口に落ちてたから、その後の行方とかは分かんねえんじゃねえかな」 「そうとも限りませんよ。行きの映像の中に怪しげな人物が映っているかもしれません」  ……まずい。殺される。  真田はきつく目を閉じた。
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