消えたお嬢様

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 メガネの映像が矢野のスマホに映し出される。    三十分前の愛姫の視点は、公園に向かって走るシーンから始まった。真田も同じように見た光景だ。  交差点を抜けた先に密集した木々の枝が迫り出している。  電球の切れかけた街灯の下に、黒い車が一台停めてあった。  愛姫が公園の中に入る。  水飲み場の前で彼女に背を向けている真田がいる。  万事休す。  かと思われた次の瞬間、映像が乱れた。コマ送りのようになったと思ったら突然ブラックアウトする。 「……故障していますね。もしかしてフレームを踏んだりしましたか?」 「あっ。そういえば」 「困りますね。高いんですよこのメガネ。修理費をあなたのお給料から引いておきますからね」  矢野は世知辛いことを言う。真田は今月タダ働きだな、と覚悟した。 「映像はこれだけですか。……おや?」 「どうした」  矢野がスマホの画面を食い入るように見ている。真田は殺されるのか? と思いながらおそるおそる画面に目をやった。  するとそこには、公園の表に停めてあった黒い車の中から愛姫に声をかける数人の男たちが一瞬だけ映されていた。  真田と別れた後、公園を飛び出した愛姫は彼らに呼び止められていたようだ。  そしてそこでメガネが地面に落ちた。  そのメガネを、真田が踏んだのだ。 「まずいです」  矢野は眉間に皺を寄せた。さっきまでとは明らかに違って緊迫した顔つきだ。 「姫は迷子になったのではありません。彼らに攫われたんです。つまりこれは──れっきとした誘拐です」 「誘拐……⁉︎」  真田は矢野のスマホを奪って画像を真剣に見た。 「彼らに見覚えは?」 「こいつらは……」  真田は画面を睨みつける。  画像はかなりブレているが、彼らの特徴的な服装と髪型は見間違えようがない。  それはゆみの姿をした愛姫をブスや地味子と呼んでからかっていたカツアゲ集団のメンバーだった。
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