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愛姫の行方
◇
「お前……本当に地味子か?」
私が公園から飛び出したところを無理やり捕まえて車に押し込めておきながら、彼らは戸惑ったようにそう尋ねた。
抵抗した時に、私がメガネを落としてしまったからだろう。
私の素顔を見て、彼らは全員ポカーンと口を開けてアホみたいな顔をしていた。
「地味子ですけど、それが何かっ⁉︎」
今は、それどころじゃない。
私は泣きながら彼らに怒鳴り散らしてしまった。
感情がぐちゃぐちゃで、コントロールできない。
「あなたには俺がいます。これからもずっと、あなたのそばにいます。だから──行かないでくれませんか」
矢野に止められたあの時、もしも真田さんに会いに行くのをやめていたらこんなことにはならなかったのかもしれない。
でも、私の心の中から真田さんが消えることはなかった。
むしろ、どんどん想いが溢れてきて……。
このまま真田さんを忘れることを想像したら、真田さんに会いたくてたまらなくて、泣いてしまった。
矢野はそんな私にこう言った。
「……なに本気にしてんですか。こんなの、あなたをここに引き留めておくための嘘に決まってるじゃないですか」
嘘だったの?
驚く私に、矢野は優しい笑顔で続けた。
「この私が、姫のようなバカを本気で好きになるわけないでしょう」
これには、頷かざるを得ないというか、納得してしまった。
私はバカだ。
真田さんに会いたい。
ただその一心だった。
そして──。
ついさっき、とうとう彼に正体がバレてしまった。
思い出すと涙が溢れる。
真田さんの方から好きだと言ってくれて、抱きしめてキスまでしてくれたのに、そんな彼を私は最悪のタイミングでまた地獄に叩き落としてしまった。
「お嬢──?」
愛した人が大嫌いな資産家のお嬢様だと気づいた時、彼は信じられないという顔をして固まっていた。
もうダメ。終わったと思った。
きっと、二度と許してもらえない。
気がついたら彼の前から逃げ出していて、そして今、何故か不良に捕まっている。
そんなことはどうでもいいから泣かせてって感じだった。
この世が終わったばかりなんだから。
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