愛姫の行方

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 車の中にいた三人の不良は泣いている私にいつもの低俗な「ギャハハ」という笑い声を浴びせるかと思っていたけど、 「今までごめん……地味子なんて言って」 「ああ……本当悪かったよ」 「勘弁してください、地味子さん」  何故か彼らは態度を改め、泣いている私に対して下手に出た。 「一体、何の用なんですか⁉︎ またカツアゲですか⁉︎ 私今、お財布持ってないからカツは買えませんよ⁉︎」 「いや、カツアゲじゃないのは分かるだろ⁉︎ この状況だぞ⁉︎」 「さすが地味子さん……いつも俺たちの右斜め上を行くなー」 「なんか俺……地味子のこと好きになってきたかも……」  私の左隣に座っていた不良Aが突然デレてきた。すると助手席の不良Bが拳を振り上げる。 「テメエ! 抜け駆けすんな! 地味子は俺が最初からいいなって目をつけてたんだよっ!」 「嘘つけ! 真田のやつ、よくあんなブスと付き合ってんな〜ってほざいてたじゃねーかよ!」  運転席の不良Cまで「地味子は俺の嫁!」とか言い出している。  本当に、一体何なの。  どっと疲れてしまう。 「用がないなら帰してください。あまり遅くなると家族が心配するので」  私は鼻をすすりながらドアを開けて出ようとした。けれども、運転席の男がロックをしたようで、いくら開けようとしても開かない。 「まあまあ、落ち着けよ地味子。お前の話を聞いてやるからさ」  隣に座った不良Aが気安く愛姫の肩に手を置く。 「真田のやつと喧嘩したのか? この前までラブラブだったのになー」 「そうそう。真田とデートする約束してあんなに喜んでたのに」 「あ、あなたたち……もしかしてあの時、見ていたんですか? それでわざわざ私たちの邪魔をしに来たというわけですか?」 「待ちくたびれて寝ちまったけどな」 「暇な人たちですね!」 「いいだろ、別に。それより、真田と何があったんだよ」  私は真田さんとデートの約束をした日のことを思い出した。  会いたいとわがままを言ったら、迷わず会おうと言ってくれた。  あの幸せはもう戻ってこないと思うと胸が張り裂けそうになる……。  また瞳がウルウルし始めたら、不良Aが「地味子……」と笑っちゃうくらい真剣な顔を見せた。 「俺で良ければ……お前の次の彼氏になってやってもいいぞ……?」 「は?」  何が「俺で良ければ」だ。  いいわけないだろう。
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