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「あの……さっき助けられた者ですが……お礼を言いたくて……」
「……別に、そんなんいらねえし」
それで終わり、と言いたげに手を振ると、真田は再び歩き出そうとする。私も再び食い下がった。
「いえ! そういうわけには。ぜひお礼を受け取ってください! 今はあまり持ち合わせがないのですけれど……」
帯付きの100万円程度しか。
そう思いながら、かばんの中に手を入れようとしたその時、突然彼に手首を掴まれた。
「!」
驚いて見上げると、眠そうだった彼の表情は一変していた。濃いめの眉、切れ長のキリリとした眼差しはまさに先ほどの鬼神、いや逞しい若武者のように精悍だった。
「──金なんかいらねえよ」
トクン、と胸が鳴る。
「あいつらと一緒にするな。そんなもんが欲しくて助けたわけじゃねえ」
「お金なんか……いらない──?」
その言葉は私の胸になぜかまっすぐ刺さって抜けなくなった。
お金なんかいらない。
そんなことを聞いたのは初めてで、どうしたらいいのか分からなかった。
ただ、胸が痛かった。
彼のまっすぐな瞳がとても綺麗だった。
彼はそのまま私の前から去った。
その汚いはずの背中は、私の目の裏に焼き付いてずっとキラキラと輝き続けた。
その後、私は初日を遅刻し、学校からも矢野からもネチネチと怒られた。
けれども、そんなことはどうでも良かった。右から左へ受け流しながら、私がずっと考えていたのは彼のことだった。
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