愛姫の行方

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「冗談はこれくらいにして、早くここから出してください」 「そうはいかねえよ。こんなに傷ついている地味子を放っておけるわけないだろ?」    不良Aが気安く私の肩に手を乗せる。 「地味子を泣かせる悪い真田なんて、俺たちで成敗してやるよ! っていうか最初からそのつもりだしな!」 「そのために地味子を人質に取ったわけだが、卑怯だとか思うなよ? あいつは俺たち十人分より強いから、むしろまだハンデだ」 「心配すんな。人質として丁重に扱うし! 真田をボコボコにしたらちゃんと無事に帰してやるから!」  人質と聞いて、私はようやく彼らの目的と自分の役割に気がついた。 「も、もしかしてこれ──誘拐ですか⁉︎」 「今頃⁉︎」  ド天然、ハマる〜とか言いながらデレデレする三人を脳外に追い出して、私はようやく焦り始めた。    私が誘拐された理由が真田さんだとパパに知られたら、真田さんがクビになってしまう。それでなくても、真田さんのメリットをアピールしないと彼はクビにされちゃうかもしれないのに。  事の重大さに気づいた時にはもう、車は急発進していた。 「ちょっと、どこへ連れて行く気ですかっ?」 「楽しいところ」 「楽しいところ……? もしかして、動物園ですか?」 「バカだなー。んなわけないだろ?」 「じゃあ、植物園ですか? それとも、美術館? 寺社仏閣巡り?」 「修学旅行か!」  大真面目な私の答えに、三人はギャハハとバカ笑いをする。  どうしよう。  この人たちの思考回路が分からない。 「もう、地味子が天然すぎて最高なんだけど。本気で俺と付き合ってくれよー」 「嫌ですっ!」  唇を突き出してきた不良Aの顔面を両手で押して必死で抵抗する。  真田さんを騙したバチが当たったのかもしれない。  それにしても、これはひどい。  真田さんが助けに来てくれる可能性は限りなく低い。  あとは矢野の天才的な頭脳に賭けるしかないけど、いくら矢野でもほぼノーヒントで移動し続ける私を追えるだろうか。  もしかして、絶体絶命の大ピンチというやつでは?
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