愛姫の行方

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 車は10分以上走り続けた。  都会の喧騒が窓越しに伝わってくる。どうやら繁華街と呼ばれる方向へ向かっているようだ。 「私にこんなことをしてタダで済むと思ってるんですかっ? 私はこう見えても──」  すごいお金持ちなんですよ! なんて言ったら、身代金まで要求されてしまうだろうか。  私は寸前のところで身バレを回避させた。 「こう見えても何ー? 空手でも習ってる?」 「いえ……ピアノとヴァイオリンとバレエと茶道を少々……」 「嘘つくなよ地味子! 地味子がそんなお嬢様なわけないじゃん!」  不良たちが爆笑する。  しまった。みんなそれくらい習っているのが普通だと思っていたら、違ったみたい? 「は、はい、嘘です! 習い事はしてません!」  どれも3ヶ月くらいで才能がないと匙を投げられてやめているから、嘘じゃない。 「バレバレの嘘つくなよ、地味子!」 「そこが地味子の可愛いところだけどな」  私の抵抗は、結局不良たちを和ませるだけに終わってしまった。  やがて車が停まった。  着いたところは、派手な音とネオンが眩しい謎の施設だった。  たくさんのお菓子やぬいぐるみが入ったガラスケースが並んでいる。その中にぶら下がっている小さなクレーンを夢中で操作している高校生がいる。また別のところでは、車のハンドルがついた座席に座って目の前の画面に映し出された架空のレースにのめり込んでいる人、和太鼓のようなものを叩いている人、証明写真のようなボックスに入っていく女子高生など、様々に楽しんでいる様子が窺える。 「こ、この近未来的な集会所は何なんですか?」 「ゲーセンだよ、ゲーセン。入ったことないの? 地味子」 「初めてです! すごい! こんな遊び場がこの世に存在するなんて!」  私は目の前のクレーンゲームに引っかかってブラブラ揺れているパンツ一丁の男の子のマスコットが気になった。  パンツマンというキャラクターらしい。ちょっと欲しいかも。   「でも……皆さん、こんな時間に集まったりして、大丈夫なんですか? ご両親が心配なさいますよ?」 「だいじょーぶだいじょーぶ。うちの親、放任主義だから」 「メール来ても未読無視すりゃいーし」  何がおかしいのか、彼らはケタケタ笑っている。  この状況が理解不能すぎて、さすがにちょっと怖くなってきた。  
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