愛姫の行方

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「ここ、俺らの溜まり場なんだ。二階が満喫で、三階がカラオケ」 「まんきつ……? カラオケ……?」  聞いたことのない単語が次々と飛び出すから覚えるのに必死になる。   「カラオケで俺らの仲間がもう集まってるからさ、地味子も行こーよ」 「仲間って……まだいるんですか?」 「あと四人かな。みんな地味子の顔見たらびっくりするだろーなー」  不意に手首を掴まれてドキッとした。  逃げ出すなよと暗に脅されているようだった。  定員6名のタバコくさい小さなエレベーターの中に引っ張られて2階に上がると、漫画喫茶とカラオケの総合受付をしているカウンターのあるホールが現れた。  30代くらいのおどおどした男性店員と目が合ったけど、すぐに逸らされる。  どうしよう。こんなところに拉致監禁?  不良たちの人数も増えて、ますます逃げるのが困難になると思われた。  っていうか。 「わあ〜! 何ですか? ここは! 本がいっぱいあるじゃないですか!」  派手な背表紙の本がぎっしりと入った本棚が死ぬほど置いてあって興味がひかれる。 「地味子は満喫も初めてか。俺ら、地味子の初めてをどんどん奪ってんなー」  エロい顔をした不良A〜Cを気持ち悪いと思いつつ、今度はドリンクバーにも目を奪われる。 「こんなにたくさんのジュースがいっぱい! 飲み放題なんですか⁉︎ すごい! うちのパーティーのウェルカムドリンクよりも種類が豊富です!」 「まったく、何も知らねーのな、地味子は」 「めちゃくちゃ可愛い!」  不良たちは全員きゅーん♡という目つきになっている。  こんな人たちにモテても嬉しくない。  真田さんからモテなくちゃ、意味がない。  私の心にまた隙間風が吹いた。  こんな私を、真田さんが助けに来てくれるはずがない。  だったらいっそ、自暴自棄になって楽しんでしまおうかと思う気持ちが1割だけ胸の端っこに浮かんだ。
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