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「ほら、3階行くぞ、地味子」
煌びやかな漫画の背表紙に見惚れていた私を、不良たちが拉致って行く。
3階は雰囲気が一変して、長い廊下にいくつものドアが並んでいる単調な空間になっていた。
時々、そのドアの向こうからマイクを使った歌声が聞こえてくる。
「ここがカラオケですか?」
「さすがにカラオケはやったことあるよな?」
「いえ、初めてです……」
「お前、今まで何して生きてきたの⁉︎」
音楽といえばオペラか弦楽器のコンサートか一流劇団のミュージカル。
それで充分楽しく生きてきましたけど、何か?
声に出さずに憤慨していると、また不良Aが気安く私の肩を抱く。
「しょうがないだろ、地味子は貧乏すぎて遊ぶ金なんかねーんだよ。お前ら、デリカシーなさすぎだぞ?」
あなたが一番デリカシーない発言してますが!
ますます腹を立てた私を、303という番号のついた部屋に彼らが誘導する。
そのドアを開けた瞬間、ミラーボールの光と下手くそな歌が外に溢れた。
「地味子、連れてきました〜!」
「うぇえええい⁉︎」
酒でも飲んでいるのかというテンションの不良D、E、F、Gが一斉にこっちを見て、さっきの車中と同じようなやりとりが始まった。
「マジで地味子? 嘘だろ⁉︎」
「嘘じゃねーって! な、地味子!」
うるさすぎて、耳を塞ぎたくなる。やっぱり帰りたい。
「あの、もう帰してください! お金だったら後でいくらでも払いますから!」
「無理すんなよ地味子。貧乏なお前から金を取ろうなんて俺たちは思ってねーよ」
「そうそう。地味子はおとなしく人質してくれたらいいんだよ」
不良たちは優しい声をかけつつ、私をソファーの中央に座らせる。
「さて、真田をどこに呼び出すか。やっぱ、いつもの高架線のガード下かな」
「あそこならホームレスしかいねーしな」
恐ろしい相談が飛び交う中、私はやるせない気持ちになる。
「どうしてみなさんは真田さんを傷つけようとするんですか? どうしてそんなに真田さんを嫌うんですか⁉︎」
すると彼らは口を揃えて言った。
「顔?」
もしかして……ただの僻み?
結局そこなの⁉︎
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