愛姫の行方

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 廊下はまっすぐに見えて意外と入り組んだ造りになっていた。部屋の番号を覚えていないと戻るのは大変で、一人ではきっと迷子になっていただろう。  いや、もう戻りたくはないんだけど。 「地味子。やっと二人きりになれたな」  手を繋いでいる不良Aがデレデレした顔で言う。 「もしかして、俺と二人きりになりたくてトイレって嘘ついたんじゃねーの?」 「ち、違いますっ!」  助けて。  怖いし、気持ち悪い。もう限界。 「不良さん。お願いがあるのですが」 「俺、リョウっていうんだ。リョウって呼んで」 「リョウさん。ちょっと気分が悪いので、飲み物が欲しいんです。さっきのジュースを取りに行ってもいいですか?」 「それなら俺と一緒に行こうよ。どうせコップの注ぎ方も知らねーんだろ?」 「大丈夫です。一人でもできます」 「心配だからついてく!」  やはり一人にはしてもらえない。  諦めて女子トイレに入り、出てくると外で待っていたリョウさんに再び手を掴まれた。そのまま階段を下って、ドリンクバーがある2階の満喫フロアに行く。  通り過ぎようとしたカウンターで、またおどおどした気弱そうな店員と目が合った。  彼に助けを求めようかと思ったけど、自分には関係ないと言わんばかりに露骨に目を逸らされてしまった。   「地味子は何飲む?」 「え、ええと……オレンジジュースで」 「了解!」  不良のリョウさんは私と手を繋いだまま、片手でグラスに氷を入れ、オレンジジュースを注ぎ始めた。  この間に、何とかして誰かにピンチを伝えることができないだろうか。  このフロアにいる人に無理やり話しかけてみようかなと思うけど、あいにく近くには人がいない。 「お待たせ! オレンジな」 「あ、ありがとうございます」  結局、リョウさんから逃げることができないままグラスを持たされた。すると。 「かんぱーい!」 「え? か、乾杯」  突然グラス同士をコツンとぶつけられ、彼がジュースを飲む。それに釣られて、私もグラスの三分の一くらいジュースを飲んだ。  ……何だか変な味だった。  いつも無添加の搾りたての果汁入りジュースを飲んでいるせいだろうか。それに比べるとちょっと嫌な苦みを感じた。  何これ。  ただのオレンジジュースじゃない……?    
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