愛姫の行方

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「どうかした? 地味子」 「いえ……別に……」  何故だろう。胸がドキドキする。  恋のときめきとかそんなものじゃない。100メートル走った後のような動悸。何だか顔まで熱い。 「すぐ赤くなるね、地味子。アルコール弱いタイプ?」 「アルコール?」  ドキドキしながらリョウさんを見ると、彼はニヤニヤ笑いながら蓋の開いた350ml缶を見せた。 「さっき地味子を攫う前に買っといたの、こっそり入れちゃった」 「お、お酒なんですか⁉︎ 何でこんなことを!」 「地味子が可愛いからだよ」  リョウさんの顔がぼやけて見える。 「しかも睡眠薬入り〜」 「うそ……」  そう言われてみると、ちょっと眠いような気もする。 「ホテル行こっか、地味子。見たことないほどでっかいベッドがあって面白いよ」 「ホテル……? 星はいくつですか?」  高級ホテルのキングサイズベッドを思い浮かべていると、ますます眠くなってきた。 「気持ち良さそう……」 「だろー? 気持ちいいこといっぱいしよ」  私が持っていた飲みかけのグラスをそそくさと片付けると、リョウさんは私の肩を抱いてエレベーターの方へ向かった。 「外……出してくれるんですか?」 「出す出す。中でも外でもいっぱい出すよ!」  リョウさんが興奮している意味が分かんないけど、ここから出られるようだ。  頭が痛くなってきたから早く家に帰って寝たい。  それから。やっぱり。  真田さんに会いたい……。  どんな顔で会ったらいいのか分からないけど、まずは心を込めて謝りたい。  騙していてごめんなさい。  そして、最後にこれだけ伝えたい。  ずっとあなたが好きでした。  フラフラしながら誘導されるままに、ドアが開いたエレベーターに乗ろうとしたその時だった。 「おい」    エレベーターの中にいた誰かの手が、リョウさんの肩を掴んだ。
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