金なんかいらない

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 真田さんが怒りの拳を固めながらリョウさんの胸ぐらを掴む。 「お前の仲間はどこだ。全員まとめて地獄に送ってやる」 「ま、待ってくれ!」  リョウさんは震えながら叫ぶ。 「ごめん! 悪かった、これはただの悪ノリで──」 「悪ノリ? ふざけないで下さいませんか」  矢野も恐ろしい形相でリョウさんを睨む。 「あなたがたが攫おうとしたこのお方をどなたとお心得になられます? 天下の宮藤グループの総帥、宮藤雅臣様の一人娘の宮藤愛姫様でいらっしゃいますよ」 「えっ……⁉︎」  リョウさんが信じられないという目で私を見た。  カウンターにいたおどおどした店員も、騒ぎを見に来た何人かの野次馬もみんな私に注目している。  なんか私、水戸黄門みたい。 「あなたは不破凌さんですね。車に乗っていた残りの二人の仲間は柴克二さんと野々村浩さん。我が社で開発した高機能カメラにあなた方の顔と車のナンバーが写っておりました。在籍している高校も真田さんがご存知でしたので、あなた方の個人情報を調べるのは簡単なことでした。あなた方だけではなく、ご兄弟やご友人関係、ご両親のお勤め先がどの系列の傘下のどのクラスの役職なのかまでこちらは全て把握しております。野々村さんが無免許であることも、誘拐に使われた車が野々村さんのお兄様の所有品であることも調べ済みです。幸い、宮藤グループと付き合いのあるメーカーだったもので、我々はその車に搭載されたドラレコについているGPS情報をハッキングさせていただき、走行ルートを確認してこちらに伺ったというわけです」    矢野の説明を聞いていると絶望しか感じない。  矢野と真田さんがここにいる時点で、彼の言葉に嘘はないと分かる。  ただの遊びのつもりが、いつの間にか天下の宮藤グループを敵に回し、個人情報が丸裸になってしまっているというこの状況。もはやどこにも逃げ場はないと言えるだろう。   「さあ、この落とし前をどうつけてもらいましょうかね」
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