金なんかいらない

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 その後、すっかり観念したリョウさんを案内役にして、真田さんが彼らの溜まり場に向かった。全員に反省させて二度と私に手を出さないと誓わせるためだ。  何も知らずに浮かれていた彼の仲間は突然現れた真田さんを見てきっと腰を抜かすに違いない。  もしも彼らが暴れ出して7対1で戦うことになっても、今の真田さんが絶対に負けるはずはない。だから、安心して見送ることができた。  安心したら、また眠くなってきた。 「お迎えが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。姫」 「ううん、迎えにきてくれて……ありがと……」  意識がぼんやりしてペタンと座り込んでいた私を、片膝をついた姿勢の矢野がぎゅっと抱きしめる。 「あなたがいなくなって、気が気ではありませんでした」 「矢野でも……そんなことがあるの……?」 「もちろんです。姫は私の家族のように大切なお方ですから」    彼の言葉に耳を傾けながら、私はゆっくりと目を閉じた。  夢の入り口で一面の菜の花が揺れていた。  子供の姿の私と矢野が花冠を作って遊んでいる光景を思い出す。    ずっとずっと一緒にいた、私の幼なじみ。  ちょっと怖くて、だけど本当はすごく優しい私の執事。 「大好きよ、矢野。これからもずっと……私のそばにいてね」  矢野は少し黙り込んだ後で、絞り出すような声で「はい」と言った。 「帰りましょう、姫。私たちの屋敷へ」 「うん……でも……真田さん……は?」 「ああ、すっかり忘れていました。彼のことですから心配は要りません。後で自力で戻ってくるでしょう」  見殺しにする気だ。ひどい。  思わず口元が綻んだ。  その時だった。  ガンッと鈍い音がして、目の前にいた矢野が真横に消えた。 「……え?」  重い瞼を無理やりもう一度開けると、汚れたリノリウムの床に矢野が頭を押さえて倒れていた。
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