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奇跡の再会
◇
「どうかなさったのですか? 姫。学校が楽しくないのですか? もう一週間も暗い顔をなさっているではありませんか」
コンサート会場へ向かうリムジンの中で、矢野が私に紅茶を出しながら言った。
温かい湯気が丸いテーブルの上でほわほわと踊る。
私の入学祝いに、父が日本フィルハーモニー交響楽団のチケットをプレゼントしてくれたため、ピンクの夜会ドレスを着て移動している。開演時間は18時の予定だった。今回は世界的に有名なウィーン出身のバイオリニストが日本で初めてコンサートマスターを務めることで話題となっており、チケットを入手するのが困難だったと聞かされていた。
「それとも、雅臣様がご一緒されないから拗ねておられるのですか?」
矢野がいつものからかうような視線を向ける。
「そんなことないわ。パパもママも仕事が忙しいのは分かっているし、一人なのは慣れっこだもん」
「では、どうしてさっきからため息をついておられるのです? 姫には私がついているではありませんか」
黒い燕尾服の矢野がおどけた調子で私の手を取り、優しく微笑んだ。
メイドたちの間では、それを見たら天国に行けると噂されている矢野スマイルだ。
けれども、私はその天使のような笑みの下に真っ黒い羽が生えているのを知っているからドキッとしたりはしない。
長めのため息をつき、ボソッとつぶやく。
「ねえ……矢野。ある人が私に親切にしてくれたんだけど、お礼をしようとしたらお金なんかいらないって怒られたの。どうしてだと思う?」
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