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「テメエこそうちのお嬢に何しやがんだ。殺すぞ」
真田さんが私を助けようとしている。
私のことをまだお嬢と呼んでくれている。
それだけで涙が出そう。
「何が目的だ」
「金だ! 身代金……! 1億、いや10億よこせ!」
阪口は私の頭の上で引き攣ったように笑った。
「それだけあれば、一生遊んで暮らせるだろ?」
真田さんはそんな彼を冷めた瞳で見つめた。
「なんだ、金かよ。くだらねえ理由だな」
「は⁉︎」
阪口は悔しそうに歯噛みした。
「お前らみたいな金持ちには10億だってはした金かもしれないけどな、俺みたいな貧乏な家に生まれた奴は──金がないせいで入りたくもねえ大学しか入れなくて、就職も失敗して、30にもなってこんな店でバイトするクソみてえな人生送るしか選択肢がねえんだよ! 10個以上も年下の不良のガキどもにナメられて、それでも生きてくために仕方なく働いて……そんな毎日なんかもううんざりなんだよ! お前らには俺みたいな底辺の奴の気持ちなんか一生分かるもんか!」
「そんなこと……ないわ」
私は阪口の腕を必死でほどこうと息を切らしながら言った。
「真田さんは……あの人は、お金持ちなんかじゃない……。私に100万以上の借金があって……あなたと同じように、仕方なく働いているの……」
「へえ。なんだ。お前も貧乏だったのか」
阪口は真田さんを見てせせら笑った。
「じゃあ、分かってくれるよな? 金持ちなんてムカつくだけだよな。親ガチャの引きが良かっただけで、なんの苦労もなくいい暮らししてさ。こんな奴、ちょっと痛い目に遭った方がいいんだよ。俺ら貧乏人をバカにして下に見やがって。ああ、マジムカついてきた」
強く首を絞められて苦しさに喘ぐ私を見て、阪口が笑う。
それから、難しい顔で黙り込んでいた真田さんに彼はこう提案した。
「そうだ、ここで見逃してくれたら受け取った身代金の分け前を少しお前にやるよ。借金返して、お前も自由にやればいい。俺と一緒に手を組もう」
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