金なんかいらない

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 真田さんは阪口の話を聞いている間、暗い瞳でじっと何かを考えていた。  きっと、この男に同調しているんだと思った。  真田さんも資産家が大嫌いだ。  私のことを助けに来てくれたのが不思議なくらい、私も彼をひどく傷つけている。  借金さえなくなれば、彼が私に従う理由もなくなる。  これから長い間、精神的にも肉体的にも辛い思いをしながら宮藤家で働いていかなくても、悠くんと二人で生きていけるかもしれない。  このまま私を見捨ててしまえば──。  絶望に支配され、抵抗する力も私が失いかけたその時だった。  フッという笑い声が真田さんの口から漏れた。 「ふざけんな」  私は真田さんの声に驚いて、閉じかけていた瞼を上げた。  真田さんは初めて私を不良から助けてくれた時と同じ、澄んだ瞳をしていた。 「あんまりにもあんたが俺に似すぎてて、思わず笑えてきたぜ。俺ってこんなにカッコ悪いクソ野郎だったのか。自分の不幸を誰かのせいにして、鬱憤ためて当たり散らしてさ。客観的に見たらただのバカじゃねえか。みっともねえったらありゃしねえ」 「ああ……⁉︎」 「クソダセえって言ってんだよおっさん。金が欲しけりゃ働け。人から奪って喜んでんじゃねえよ。分け前なんか貰っても嬉しくも何ともねえ。そんな金──いらねえよ!」  真田さんの眼力の強さに、阪口が怯んだのが分かった。 「てめえは何にも分かっちゃいねえ。そこのお嬢は、資産家のくせにドがつくほどの貧乏人だった俺のことをずっと陰から見守って支え続けてくれたんだ。自分がどんなに憎まれても、恨まれても、倒れかけていようとも、絶対に見放しはしなかった。だから今、俺がこうして生きている──」  私の胸が火傷しそうなほど熱くなった。  無駄じゃなかった。  私の今までの演技はすべて。 「そんなお嬢を、この俺が金なんかと引き換えに見捨てられるわけねえだろ! 10億や100億積まれたって渡さねえ! 分かったら今すぐお嬢を離せ、クソ野郎!」    阪口がすくみ上がり、ビクッと震えながら一歩下がった。  その時、非常階段の真下からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。   「……私が通報しました。もう逃げられませんよ」    真田さんの背後から、フラついた足取りで頭を押さえたままの矢野が現れた。  彼の瞳も真田さんと同様、恐ろしいまでの怒りを内包している。  けれどもあくまでその表情には笑みを浮かべて、彼は言った。 「私への傷害罪で実刑でも食らってください。クソ野郎」
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