奇跡の再会

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「確かに、みんなあの人のことを危険だと言っていたわ。私も気になって彼がどういう人なのか噂を集めてみたんだけど、悪い評判ばかりなの。前工のウラバンだとか、他校の生徒と喧嘩になって出席停止をくらっているとか、目が合っただけで殺されるとか、あり得ない話ばかりで信じられなくて。ところで、ウラバンって何?」 「さて。テレビの裏番組のことでしょうか」 「ねえ、矢野。あなたさっきから嘘ついてない?」  矢野は大輪の花のような笑顔を見せた。 「まさか。この私が姫に嘘をついたことなんて、今まで一度もありませんよ」 「それも嘘! 私がこの前あとで食べようと思って残していたケーキが一口分減っていたのもあなたの仕業でしょ! 働き者の小人が食べたなんて私に嘘をついて!」 「それが嘘だという証拠はどこにあるのでしょうかね。そんなことより、そんなに悪い評判ばかりの男とはやはり姫が関わり合いになってはいけない気がします。もしどこかで見かけても絶対に近づいたり、声をかけたりしてはいけませんよ」 「会いたいのはやまやまだけど……あの人はまだ停学中なのか、一度も会えないのよ」  はあ、と何度目かのため息が出て、口をつけようとしていた紅茶の水面に波が立った。    あの人にもう一度会いたい。  あの人は私に大切なことを教えてくれようとした気がする。  それに、この胸がきゅーんとなる痛みの正体が、彼にもう一度会えば分かるかもしれない。  でも、どうすればあの人に会えるだろう。 「それにしても、さっきから車が動いていませんね。渋滞にでもはまっているのでしょうか?」  矢野はスモークガラスの外を気にした。  今私たちが走行しているのは片側四車線の幹線道路だけど、そのうちの二車線がノロノロ動いていた。 「この先で道路の補修工事をしているようですね。到着予定時刻から大幅に遅れてしまっています。このままでは開演時間に間に合うかどうか」
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