奇跡の再会

4/5
前へ
/159ページ
次へ
 矢野が珍しく焦った様子でスマホを取り出し、コンサートホールまでのルートを再確認している。  私は窓の外を何気なく見つめていた。  帰宅ラッシュの時間帯だからか、脇道もテールランプで埋まっているようだ。そんな中、皆のイライラの原因である工事中の作業員たちは、渋滞を無視するように黙々と働いている。    その時、砂袋を担ごうとしていたある作業員の姿が私の目に止まった。 「ちょっと、停めて!」  私の大声に、ようやくアクセルを踏もうとした運転手が慌ててブレーキを踏んだ。  ロックを外して外へ飛び出そうとした私を矢野が引き止める。 「お待ちください、どこへ行くんです?」 「ごめん、すぐ帰ってくるから!」 「姫! コンサートに間に合わなくなりますよ!」  私は矢野の制止を振り払い、ピンクの夜会ドレス姿のまま外へ飛び出していった。  今の人、私の目に狂いがなかったら。  ピンクのドレスの裾に泥が跳ねるのも構わず、私は混乱する工事現場に踏み込んだ。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加