奇跡の再会

5/5
前へ
/159ページ
次へ
 ◇  道路補修工事現場の作業員たちは、突然現れたその派手な少女を見て野生のフラミンゴを思い出した。  彼らは言葉を失いながら彼女を目で追う。  彼女の向かう先には、生コンクリートを製造する材料の袋を肩に担いで運ぼうとしている男の姿があった。作業服には至る所に泥がつき、手袋は裏表とも真っ黒。時々その手で頬にまで垂れてくる汗を拭くので、顔にも泥がついている。 「暑いのはわかるが、ヘルメットは被れよ真田。規則だぞ」 「はい」  上司か同僚か分からない中年の男の言葉に彼が素直に反応していったん重い砂袋を下すと、その重さの分だけ砂塵が辺りに舞った。  一瞬の蜃気楼。その向こうに、場違い極まる華やかなピンクのドレスを着た少女が立っていた。 「……やっと会えた……」  彼女は抑えきれない笑みを浮かべて彼に声をかけた。 「真田さん」  ◇  さてここで問題です。  突然目の前に現れた美女から笑顔で親しげに声をかけられた男の正しい反応を述べよ。  1。デレっとしながら「どうも」と笑顔を返す。  2。硬派を気取って堅く挨拶する。  3。夢だと思い込む。  そんなところだろうか。  しかし、私の目の前にいたこの男──真田は、そのどれでもなかった。 「何だてめーは。邪魔だからあっち行け!」  4。暴言を吐いて睨みながら追い返す。  ……これが、私が夢にまで見た男との運命的な再会シーンだった。  この日の私たちは、何もかもが違っていた。  片や、美しいドレスを身にまとった財閥令嬢。  片や、汚い泥埃を身にまとった肉体労働者。  そこには、イムジン河よりも日本海溝よりも深く悲しい隔たりがあったのだということを──私はまだ理解していなかった。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加