神田川作戦、発動

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神田川作戦、発動

 それから二日後の土曜の朝。  私は貧乏女学生江藤ゆみの変装をして、銭湯の前で風呂桶を抱えていた。  赤い手ぬぐいはマフラーにせず、風呂桶の中にしまってある。  小さな石鹸がカタカタ鳴ったのは、緊張で手が震えていたせいだろう。  ここで待っていれば、本当にあの人に会えるのだろうか。  まだ半信半疑だったけれど、矢野の言葉を信じるしかない。    工事現場の件から一日経った──つまり昨日の午後のこと。 「調べましたよ、姫」  矢野が例のあの人の報告書を持って私の私室にやってきた。私は毛の長いほわっほわの絨毯の上で飛び跳ねて大喜びした。 「早く、早く教えて、矢野!」 「まあまあ、そう慌てずに。矢野特製ハーブティーでもお飲みになってください」 「ティータイムはいいから、早く報告してよーっ!」 「そうですか? 本日のデザートは姫の大好きな千疋屋のフルーツ入り大福だったのですが……固くなってしまうといけないので、私がいただきますね」 「ちょっとちょっと! 大福はいらないとは言ってないでしょ!」  白い包み紙を優雅に広げて大福を頬張ろうとした矢野を追いかけること五分。無駄な時間を過ごしたと気づいて、おとなしくティータイムに入る。  矢野が淹れてくれたハーブティーを飲みながら、意外と大福と合うわね、なんて思っていると、矢野がおもむろに報告書を読み上げ始めた。
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