神田川作戦、発動

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「あのきったない男の名前は真田(さなだ)(よう)。明るくも眩しくもないくせに生意気に太陽の陽という字をもらっているようです」 「あの人にぴったりの名前だわ」 「誕生日は四月三十日、牡牛座のA型。前田工業高校二年の十七歳。ちなみに獅子座でB型の姫とは相性最悪です」 「いちいちうるさい豆情報ね」 「安心してください姫、私の射手座とは相性最高ですから」 「どうでもいいわよ、そんなこと」 「……私に文句をつけますか? この状況で?」  矢野は片手でライターに火をつけ、報告書をスルメのように炙ろうとした。 「や、やめて! ごめんなさい、矢野さまのおっしゃる通りです! 相性最高の矢野さまが執事だなんて、私は幸せ者ですぅ!」 「……まあいいでしょう」  矢野はライターをしまった。私はほっとため息をつく。 「それで……彼の趣味は? 休日は何をして過ごしているのかしら? あ、その前に家はどこ? この間のお礼に手作りの菓子でも持って伺いたいのだけど……」  それをきっかけに仲良くなっていずれ恋仲に……などと夢見る私を憐れむような眼差しで矢野が言う。 「……彼には両親がなく、ほぼ寝たきりの体の弱い弟と生活保護を受けながら二人暮らしをしているそうです。小さなボロいアパートで、トイレは共同、風呂はついていません。とても姫の伺えるような場所ではありませんよ」 「……え?」  矢野の言葉が理解できずにフリーズしてしまう私に、 「『ド』貧乏なんです、彼は」  と矢野はドにアクセントを置いてシンプルに彼の身の上を説明した。
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