神田川作戦、発動

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 貧乏。  資産もなく、収入も少ない人を指す言葉。  そういう人たちが世の中に多くいることは私も理解していた。  だから。 「それが何? 関係ないわ」  彼が貧乏だろうと宇宙人だろうと私の胸キュンハートは止まらない。何の障害にもならない。 「しかし彼の方はそう思っていないようですよ。昨日の工事現場で聞き込み調査をしたところ、いつもは無口で物静かな彼が姫のことでからかわれ、珍しく怒ったそうです」  その際彼が言った言葉が──。 「あんな金持ちを気取ったような女は大嫌いだ。二度と会いたくねえ。だそうです」 「ええええええ⁉︎」  私は思わず大福を真っ二つに引きちぎってしまった。   「彼は寝る間も惜しんで幾つもアルバイトを掛け持ちして生活を支えています。昨晩のバイトは時給のよい方です。それを邪魔されたので、怒っているのではないでしょうか」 「そ、そんな……。私はただ、久しぶりに会えたのが嬉しかっただけで、邪魔するつもりなんてなかったのに……」  私は矢野に詰め寄った。   「どうしたら彼に悪気はなかったと分かってもらえる? 誤解されたままなんて悲しいわ。何とかして!」 「それはもう、姫が直接話すしかないのではないでしょうか」 「でも、私には二度と会いたくないって言ってるんでしょ? また会いに行っても追い返されるだけで終わるんじゃ──」 「今のお姿の姫では、確かに面会は難しいかもしれません。ですが、姫にはもう一つの顔があるじゃありませんか」  そして矢野が提案したのがこの作戦だ。その名も「神田川作戦」。  貧乏女学生に扮して銭湯で彼を待ち伏せし、偶然を装って話しかける。貧乏同士なら彼の態度も軟化するのではないかと期待しての作戦だ。  なぜそんなネーミングなのかは知らないけれど。
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