お友達になってください

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「ご、ごめんなさい! 変なことばっかり言っちゃって! 悪気はないんです! だから、その……」  嫌いにならないで! と言おうとした時だった。  真田さんの肩が小刻みに震えていることに私は気づいた。  目の前の光景が信じられず、何度もまばたきをしてしまう。  今までずっとピリピリした荒々しい顔を見せていた彼が、声を殺しながらではあったけれど──笑っていたのだ。 「貧乏娘って、自分で言うか? その前のツルって言いかけたのも訳わかんねーし……ははっ」  彼はとうとう声を出して笑った。  笑うとますます普通の少年のように爽やかで、素敵になった。  これがあの真田さん?  なんだか、ギャップがすごい。 「あー久しぶりに笑った。ずっと夜勤が続いてて疲れてたからかな……普段はこんなに笑わねえんだけど」 「そ、そうなんですか? じゃあラッキーなんですね、私!」 「変なヤツだな、あんた」  決して褒め言葉ではないはずなのに、私の胸は何故かキュンキュンとしてしまった。 「もっと笑った方がいいですよ! 母が言ってました。笑う門には福来るって」 「……そうか」  彼は少しだけまた瞳に陰を宿して呟いた。 「だからうちには福が来ないのかもな」  笑っていても、切ない瞳をしていても、彼の表情のひとつひとつが胸に刺さる。 「それで、あんたは俺に何か用があったのか?」 「あ、あの時のお礼をしたくて……」 「ただ通りかかっただけなんだから、そこまで恩を感じなくてもいいのに」 「いえ、それじゃあ私の気持ちが収まらないんです!」 「律儀なツルだな。そんなに恩返しがしたいのかよ」  彼はまた少し笑って、銭湯の横に立っていた冷蔵庫のような大型の箱を見た。 「じゃあジュースの一杯でも奢ってくれ。風呂上がりで喉が乾いた」
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