お友達になってください

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「ジュースですね! 分かりました」  でも、この辺りにはオシャレなカフェなどない。それに、いつものキラキラ財布を持ってくるのも忘れていた。 「ごめんなさい……今はお金がなくて」 「そっか。貧乏娘だもんな。銭湯の分しか持ってないか」  彼は私の粗末な服を見て何かを察したらしい。  穴が開いたボロボロのジーンズの尻ポケットから小銭を取り出し、大型冷蔵庫のような箱のコイン投入口というところに硬貨を入れた。  すると、なんと言うことでしょう。  その冷蔵庫のような箱の中から、缶が出てきた。そこにはコーラと書いてある。魔法や手品のようなものを見せられて、私は心からびっくりした。 「すごーい! どうしてここからジュースが⁉︎」 「どうしてって……自販機だから当たり前だろ」 「これがジハンキ⁉︎ 初めて見ました!」 「マジかよ。そこまでの貧乏人、こっちも初めて見た」  彼は私が貧乏ゆえにジハンキでの買い物さえままならないのだと思ったようだ。憐れむような眼差しで私を見る。 「あんたも飲むか?」 「えっ、いいんですかっ?」 「ああ。奢るよ。一応稼いでるから」  彼は再びコインを入れて『つぶつぶオレンジ』という缶ジュースを出してくれた。そのジハンキで一番容量が多い飲み物だった。 「ほら」 「ありがとうございます!」  ジハンキの缶ジュース。初めて飲む! 「いただきます!」  私はそのままグイッと缶ジュースに口をつけて上に向けた。でも、全然ジュースが出てこない。  ぶっ、と彼が飲んでいたものをふき出しそうになった。 「いや、開いてないから蓋」 「フタ?」 「貸せよ」  笑いながら彼がジュースの真ん中の輪っかに爪を立てる。シュッと音がして、さっきまでなかった穴が現れた。 「すごい! 画期的!」 「こいつはヤバいやつが来たな……」  彼は耳たぶの先まで赤くなって子鹿のように震えている。思い切り笑えばいいのに、恥ずかしいのか堪えているようで、その悶える表情がまた可愛らしかった。
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