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「いただきます! ……ぷはっ、美味しい! こんなに美味しい飲み物、初めてです!」
「それは良かったな」
『つぶつぶオレンジ』にはオレンジの果汁の粒も入っていた。その食感がプリッとしていて美味しいし、搾りたての生ジュースよりも甘くて飲みやすくてゴクゴクいけちゃう。
「ああ、幸せ……。ありがとうございます! 真田さんって、神様みたい」
「やめろよ。こんなもんでそんなにありがたがられても恥ずかしいだけだ」
彼は本当に恥ずかしそうに顔を逸らした。
照れ屋で優しい人。
二日前の人と同一人物だとは思えない。
あの時は仕事中だったからだろうか。オフになるとこんな顔もするんだ。
もっといろんな真田さんが見たい。
そう願うのは私のわがままだろうか。
「じゃあな」
「も、もう帰るんですか?」
まだ全部飲みきっていないのに、真田さんが帰ろうとしたから私は焦った。
「家で弟が待ってるんだ」
彼は真面目な顔つきになる。
「最近、夜勤続きで心配かけたから早く帰ってやらないとな」
矢野の報告書にも書いてあった。彼には病弱な弟がいるのだ。
「弟さん思いなんですね」
「普通だろ。家族なんだから」
彼はまた少し照れたような顔をして歩き出す。
私も彼を追って歩き出した。
「風呂はいいのか?」
「真田さんともうちょっとお話ししたいから、また今度にします。うちもこっちの方向なので、一緒に帰りましょ」
「……変なやつだな、あんた。俺となんか、学校じゃ誰も話したがらないぜ」
「そうなんですか? 私は真田さんといっぱいお話がしたいです」
「話って言われても……面白い話なんか何もねえけど」
「どんなお話でもいいんです。真田さんのことなら、何でも聞きたいんです」
真田さんは困ったように少しの間黙った。
沈黙していてもかっこいい。
「……あんた、俺のことが怖くないのか?」
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