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真田さんが握っていたコーラがベコッと変な音を立てた。
「……は? いるわけねーだろそんなもん」
「本当ですかっ? 良かった」
私はスキップしたくなった。一度もちゃんとできたことないけど。
「じゃあ、好きな人は?」
「いねえな。そんな暇ねえし」
「お友達は?」
「……それもいない」
「私もです!」
私はもう我慢できなかった。彼の正面に走り込んで彼を見上げ、両手を胸の前で握りしめた。
「私も、友達も好きな人も付き合っている人もだーれもいないんです! だから、私の初めてのお友達になってくれませんかっ⁉︎」
まずはお友達になって、ゆくゆくは恋仲に!
そんな夢を見る私に、彼は本気で戸惑っているようだった。
立ち止まって頭をかく。
やがて、たっぷりと間を置いた後で彼はボソッと言った。
「俺なんかとつるんでると、あんたも同類だと思われるからやめとけよ」
がーん!!!
お友達、拒否された!!!
指の先までガッカリしたその時だった。
「兄ちゃーん」
どこかから少年の声が降ってきた。
それを聞いた真田さんが表情を変えた。
「悠?」
彼は目の前の二階建て木造アパートを見上げた。視線を追っていくと、その二階の窓から小学校高学年くらいの男の子が顔を出していた。
どうやら、例の病弱な弟らしい。
色白でサラサラした髪の、可愛らしい顔立ちの子だった。
「危ねえだろ、何やってんだよ」
「その人、誰? 兄ちゃんの友達?」
彼は私を見ないで答える。
「いや、そんなんじゃねえけど」
がーん!!!
もう一回、がーん!!!
はっきり、友達じゃないって言われた!
ショックを受けている私に、「あれ弟なんだ。じゃあな」と声をかけて、彼はアパートの外階段に向かって走っていった。
仲良くなって誤解を解く作戦、失敗。
友達認定さえしてもらえず……。
ショックで棒立ちになってしまう。
「ねえ、お姉さん」
その時、再び上から声がかかった。見上げると、さっきの子がまだ顔を出している。
「なあに?」
男の子はにっこり笑って言った。
「もし良かったら、上がってきてよ。僕の話し相手になって欲しいんだ」
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