お嬢様の涙

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お嬢様の涙

 小さな丸い卓袱台を真田兄弟と囲んで食べる塩焼きそばは、私が今まで食べた手料理の中でお世辞ではなく一番美味しくて温かかった。  この狭い部屋に広がる光景は私が見てきた世界とはまるで違うけど、そこには確かな幸せがあって、愛と優しさに溢れていた。使い込まれた木目の卓袱台のシミでさえ、彼らの思い出が刻まれていると思うと愛おしい。  そんな彼らの中に私がいる。  なんて幸せなんだろう。  貧しさなんて関係ない。  私は彼らが好きだ。   だけど、楽しい時間はいつまでも続いてはくれなかった。  食事の後で、眠そうにあくびをしながら真田さんが放った言葉が、その幕開けだった。 「疲れたな」 「お疲れ、兄ちゃん。昨日もまたからかわれたの?」 「まあな。あれは当分言われ続けるぞきっと」 「からかわれるって……?」  私が尋ねると、悠くんがニヤッと笑った。 「おととい、兄ちゃんの工事現場に、変な女の子がやってきたんだって。ピンクのドレスを着た派手な女の子!」  ドキーン! と私の心臓が跳ねた。 「兄ちゃんの知り合いっぽい発言してたみたいなんだけど、兄ちゃんは知らなかったんだって。多分人違いだよね。執事みたいな人も来て、コンサートに遅れますよって言いながら女の子と外車に乗って行ったんだって。そんな人たちと兄ちゃんが知り合いなはずないもん。だけど、現場の人たちがその女の子のことで兄ちゃんをからかうようになっちゃって」 「まったく、いい迷惑だ」  真田さんの瞳がスッと冷たくなった。
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