お嬢様の涙

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 彼らの仲間に入れてもらったような気持ちでいたけど、全然違う。  私はやっぱり、どこか物珍しさで彼らを見ていた。  玄関の小ささや狭い部屋や慎ましい食事を、面白がってしまった。  そんな自分が情けない。ひどい人間だと思う。 「……なんかよく分かんねえけど、あんたも苦労してるんだな」  真田さんが同情するような言葉をかけてくれた。  彼の優しさが痛い。申し訳なさでますます涙が溢れてくる。   「お姉ちゃん、大丈夫? 兄ちゃん、ハンカチは?」 「そんなシャレたもん持ってねえよ」 「ぼくも……。ごめんね、ぼくたち、ハンカチもなくて。ティッシュでいい?」  悠くんが枕元にあったボックスティッシュを差し出してくれた。悠くんにまで心配されて、優しくされてしまうなんて。涙腺が崩壊する。 「私は大丈夫。ありがとう……」  メガネを外して涙を拭こうとして、私はハッと踏みとどまった。  メガネだけは外したらダメだ。  私の正体が、おととい彼にムカつくことを言った金持ち女だということがバレてしまう。そばかすメイクも涙で落ちちゃったかもしれないし。  私は下を向いて、もらったティッシュをレンズの内側に差し入れようとした。    でも、その時。 「メガネ、取れば?」  拭きづらそうだと思ったのか、真田さんの指がスッと伸びて私のメガネのフレームに触れた。  ドキッとして顔を上げた瞬間、メガネがずれて、裸の目がフレームの外に──。  驚いた顔をした真田さんと目が合う。  やばい。素顔を見られた……! 「あんた……」  真田さんが何かを言いかける前に、私は立ち上がって「お邪魔しましたっ!」と彼の家を飛び出した。  まずいまずいまずいまずい!  どうしよう!  正体に気づかれたかも⁉︎  心臓がバクバクする。足が震えて早く走れない。アパートの外階段から転がり落ちそうになりながら、とにかく逃げる。  もしも気づかれてたらどうしよう。  金持ちをひけらかした嫌味な女が何をしに来た、貧乏なふりをしてからかいに来たのかって──怒ってたらどうしよう。  私のこと、ますます嫌いになったらどうしよう……!
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