お嬢様 エピソード0

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 約一年間しぶとく父を説得した私は、やがて父から「勝手にしろ」というありがたい了承を得る。その足で私は、長年私に仕えてきた唯一の友と呼べる男──執事の矢野がいる執務室に飛び込み、全身で喜びを訴えた。 「聞いてよ矢野! 私、普通の高校に通えることになったの!」 「良かったですね、姫」  矢野は優しげな笑顔でそれを迎えた。  私より二つ年上のこの若い男は父の執事を務める男、矢野潔の息子で、親子二代で宮藤家の内政を支えている。  頭の回転の速さは親以上と噂される切れ者で、姿勢の良いスラリとした細身に前髪を半々に分けた髪の形、顔のパーツもまた人形のように美しく整っている人だけど……。 「あとは姫の学力で受かる高校があれば、の話ですが」  何分(なにぶん)にも、毒舌。  ちなみに姫とは私の名前、愛姫から取ったあだ名で、この宮藤家の中では彼しかそう呼ぶ者はいない。 「その姫っていう呼び方、やめてくれない? 馬鹿にされているようにしか思えないんだけど」 「私が姫を馬鹿にするなんてとんでもない誤解です。心から慕っている証拠でございます」  本当だろうか、と頭の片隅でふと思ったけど、いい気分だったのでスルーすることにした。 「ご心配なく。狙っている高校の偏差値はもうリサーチ済みよ。名前を書けば受かる程度の学力でも受け入れてくれる高校が、うちの近くに一校だけあったわ!」 「それは助かりましたね。私が裏で手を汚さなくても済むのならそれに越したことはありません」  やっぱり馬鹿にされている。
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