お嬢様の涙

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 これは……なんていうラッキー展開⁉︎  真田さんとはお友達になれなかったけど、悠くんとはお友達認定してもらえたみたい。  ごめんね、悠くん。  ダシに使ってしまうみたいで申し訳ない。  私は心の中で悠くんにそっと手を合わせた。 「そういえば、名前も聞いてなかったな。あんた、名前は?」 「えーと…えとう……江藤です。江藤……ゆみ」  一瞬、仮の名前を忘れかけていてドキドキした。 「江藤ゆみ、か」  分かった、と彼は頷いた。 「あんたの名前は覚えておく」  私は嬉しくて満面の笑みを浮かべた。  偽名でもいい。彼の記憶に残るなら、こんなに嬉しいことはない。今日はもうこれで大満足……。  幸せいっぱいの私に、じゃあ、と真田さんは立ち去りかけて、一度立ち止まった。  振り返った彼はちょっと照れくさそうな顔をして言った。 「あのさ──余計なお世話かもしれねえけど」 「え……?」 「その眼鏡は、外した方が──」  かっこいい眼差しの真田さんと一瞬目が合う。 「いや。やっぱ、何でもない」  彼は心なしかほんのりと赤くなった顔を隠すように再び私に背を向けて、颯爽と走り去った。  私は道の上でドキドキしながらそれを見送っていた。 「今のは……どういう意味……?」  よく分からないけど、何だか褒められたような気がする。空でも飛びたいくらい嬉しい!  気持ち悪い含み笑いが自然とこぼれるのを止められないまま、私は時折ジャンプを加えたステップで来た道を引き返した。  その時だ。 「相変わらずスキップが下手ですねえ」  と、地の底を這うような恐ろしい声が聞こえたのは。 「きゃあ!!」  私は立ち止まり、おそるおそる辺りを見回した。通り過ぎたばかりの電柱の陰から現れたのは、こめかみに青筋を立てた矢野だった。 「や、や、矢野……! み、み、み、見てたのっ……?」
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