菜の花の約束

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「は……?」  機械に疎い私にはちんぷんかんぷんな説明だった。状況が読めずに混乱していると、矢野は淡々と分かりやすく説明し始めた。 「つまり、そのメガネをかけている限り、姫の行動はすべて私に筒抜けなんですよ。姫には内緒にしておくつもりでしたが──こんな危ないことをされてはもう黙っていられません」  えっ? と私は固まった。  全て筒抜け? 真田さんとの会話も、何があったのかも、全部矢野に見られていたっていうこと? 「ちょ、ちょっと待って! な、何の権限があってこんなこと……⁉︎」 「姫のお父上、雅臣様のアイデアです。この端末を装着することを条件に、姫は徒歩通学が許可されたようなものなのです。私はそのデータを週末ごとにまとめ、報告書を作るようにと命じられております。ただし初日は転送設定にトラブルがあり、あの男のことが記録に残りませんでしたが」 「ウソ……。ウソでしょう……?」 「嘘ではありません」 「ま、待って、ちょっと待ってよ! それじゃあ」 「あなたの恋愛、生かすも殺すも私の報告書次第──ということです」  冷酷な顔の執事は「ご自分の立場がお分かりになりましたか?」と上から目線で私を見下ろした。  思わず膝をついて屈服しそうになったけど、なんとか踏みとどまる。 「パパに言うの? 彼のこと……!」  泣きそう。 「雅臣様はきっと許されないでしょうね。姫は女子高にでも編入させられ、あの男とは一生会えないように操作されることでしょう」  先程までの浮かれた気持ちはどこかへ吹き飛んだ。私は涙を浮かべて矢野を睨む。 「どうして……? どうして、急にそんな意地悪を言うの⁉︎ 今朝まで私に協力してくれていたじゃない! 彼のデータを調べて、作戦を立てて、彼に会わせてくれたのは誰⁉︎」 「勘違いしないでください。それはあなたを喜ばせるためではありません」  矢野は鉄仮面の表情でピシャリと言い放った。
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