菜の花の約束

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「矢野……嘘だと言って。私とあなたの関係がお金で繋がっているだけなんて──そんな悲しいことを言うのはやめてよ!」  高校生になっても親から監視され続けている事実より、真田さんと引き離されるかもしれないという恐怖より、何よりも辛かったのは今の矢野の言葉だった。 「あなただけは私の味方でしょ……⁉︎ 仕事ばっかりでほとんどそばにいてくれないパパやママよりも、あなたはそばにいてくれたじゃない。学校に行けなくなった私の家庭教師の役もしてくれたじゃない。何でも相談できる先生で、家族で、唯一の友達……だったじゃないの」  涙で前が見えない。矢野がどんな顔をしているのかも分からない。  それでも私は訴え続けた。 「私はあなたのこと、ただの一度もお給料だけの関係だなんて考えたことなかった! そばにいるのが当たり前だと思ってた! だって、それが──矢野だから」  理由も理屈もない。  矢野という存在はもう私にとってかけがえのない場所にあった。  それなのに、『友達なんかじゃない』なんて。  悲しすぎて声が震える。 「あなたに背を向かれたら私は……本当に一人ぼっちになってしまうわ」 「では、姫はこの私に、雅臣様を裏切れと仰るんですか? あの男との恋を見逃せと……?」  矢野の鉄壁が初めて揺らいだ気がした。  私が本気で泣いたせいだろうか。 「そんなことをしたら私は処分を受けます」 「処分なんてさせないわ。矢野のことは私が全力で守る。だから……」    私は顔を上げてメガネを外し、全力の瞳で彼に迫った。 「私の味方だと言って。お金なんてなくても私のそばにいるって言ってよ。お願い……」  彼と過ごした年月と、積み重なった思い出が、ただの契約であるはずがない。 「あなたはそんなに冷たい人じゃないでしょ? どんなに意地悪なことを言っても、結局いつも最後は私を助けてくれる──そういう人だって、私は信じてる」
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