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「はい?」
苦い表情で振り向いた矢野に、私は真っ直ぐな視線を向けた。
「何とかして、彼らの負担を軽くすることは出来ない……? そうだ、うちから建設用の重機をプレゼントするのはどう? それから人手をもっと増やしてあげるの。ついでにみんなのお給料も上げられるようにして……」
「無茶です。入札も終えて施工に入っている公共事業に横槍を入れるなんて──それをお父様に頼むつもりですか? 何と言い訳するつもりです?」
好きな人が働いている現場だから、なんてもちろんそんなことは言えない。
「その辺の理由は矢野がうまいこと考えてよ。さっき、許容できる範囲で手伝うって言ったでしょ?」
「今、激しく後悔しています」
矢野はさっと私から目をそらした。私はそんな彼の横顔を恨めしく睨む。
「だって……生活に苦しんでいる彼に対して、私に出来ることはそれくらいしかないんだもの」
「姫自身は何もしていないのも同然です」
「意地悪なこと言わないで、何とかしてよ!」
「現場を無理やりいじるのはあまりいいアイデアとは思えませんけどね」
渋る矢野に、私はビシッと言い放つ。
「いいから、さっき私が言ったことを何としても実現させて。私がわがまま言ってるってパパに言っていいから。責任は私が持つわ」
どう責任を取るおつもりですか──と文句タラタラの矢野には悪いけど、頑張ってもらうしかない。
真田さんと、弟の悠くんのためだ。
どんな手を使ってでも、彼らに楽をさせてあげたい。
それで少しでもお嬢様の私を見直してもらえたらいいな……。
──そんな淡い希望を抱いていた私は、後にこの時のことを目一杯後悔することになる。
私の余計なお節介が、結果的に真田さんをあそこまで追い詰めることになってしまったのだから──。
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