真田家のピンチ

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「クビになった……? どうして──」  私が尋ねようとした時には、彼はもう廊下を去っていくところだった。  どういうこと?  どういうこと?  なんで、真田さんがクビになるの?    息が苦しいと思ったら、呼吸を忘れていたようだった。私は慌ててメガネのフレームの内側についている小さなボタンを押した。  このメガネがウェアラブル端末だと教えてもらった後、電話機能もこれに備えてあると聞いたのを思い出したのだ。このボタンを一回押すだけで矢野のスマホに繋がる仕組みになっているらしい。 「矢野、今の話、聞いてた?」 『ええ。聞きました』  矢野の声も固くなっていた。音は骨伝導で拾っているらしい。 「すぐに彼の工事現場で何があったか調べて! 私はもう一度真田さんから話を聞き出せないか試してみるわ」 『了解しました。授業はサボらないで、ちゃんと放課後まで待つんですよ』 「分かったわよ!」  気になって授業どころじゃないことは分かっていたけど、私はうなずいた。  真田さんが授業をサボって途中で早退してしまうんじゃないかと心配をしながら残り二時限の授業をやり過ごし、放課後のチャイムと共に私は教室を飛び出した。  校門で待っていれば確実に会えると信じて待つ。  もし会えなかったら、そのまま彼の家に突撃するつもりだった。    けれども、その心配は無用だった。  私の目は校門に向かって歩いてくる真田さんの姿をすぐに見つけていた。  彼は悪い意味で目立っていた。  前田工業高校を陰で支配しているウラバンなどと噂されていた彼のことを知らない生徒はいないようで、みんなが彼を避けて歩いている。下校時の混雑も関係ないというように、彼は一人で堂々と歩いてくる。  緊張して、胸が弾んだ。
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