真田家のピンチ

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「全然大丈夫じゃないじゃないですか!」 「言っただろ、現場クビになったんだ。日雇い収入がないから月末まで食費切り詰めなきゃなんねえんだよ」 「ど、どうして」  クビに……? 言葉に出すのを躊躇った私をちらりと見て、真田さんは困ったように頭をかいた。 「俺もよくは分からねえ。俺だけじゃなく、あの現場にいた人間は一斉に切られたんだ。突然のことだった」  宮藤建設(くどうけんせつ)って知ってるか、と彼は暗い目をした。  知っているも何も、私の父のリゾート会社の建設を任せている会社だ。 「そ、そこが何か……?」 「乗っ取られたんだよ。現場を」  私は驚いて言葉を失った。 「原因はあのお嬢様だ」  彼は苦々しい顔をして呟く。  血の気が引いて、指先の感覚がなくなった。   「急に現場に宮藤建設の連中がやってきて、この後はうちがやるから帰れって言われて追い出されてさ。何でだって食い下がったら、『お嬢様の命令だ』ってそいつらが言ったんだ。俺たちの工事のせいでコンサートに遅れかけたことを根に持ってこんなことをしたんじゃねえかって、誰かが言った。それで自分の会社の重機や社員を連れて乗り込んできて、俺たちを追い出したんだって。あのお嬢様、自分たちの会社で施工した方が早いと思ったんじゃねえかな。俺たちを雇ってくれていた建設会社ごと吸収して、現場を総入れ替えしちまって……。あいつのせいで何十人の労働者の人生が狂ったことか。本当に悪魔のような女だ」 「そんな……」  信じられない。  私はそんな要望なんて出していないのに。 「まあ、あんな女を恨んでる暇もねえけどな。雀の涙の退職金はあっという間に消えたし──何とかして稼がねえと悠が……」  彼は唐突に口を閉じた。  余計なことを言ってしまったという顔つきだった。  悠くんが、何?    私は嫌な予感で胃までおかしくなりそうになった。 「悠くん……? 悠くんが、どうしたんですか?」
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