真田家のピンチ

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 私がしつこいくらいに尋ねると、彼は根負けしたように呟いた。 「あいつ、本当は心臓が悪くなってたのに、俺に心配かけまいとずっと無理してたみたいでさ。こないだとうとう倒れちまったんだ」  先ほどの退職金の使い道は、悠くんの一時入院費と治療費だったようだ。  かける言葉も見つからない。 「手術をすぐに受けさせなきゃまずいって言われたのに、金がなくて病院側に待ってもらっているんだ。今は家に帰ってきて安静にしてるけど、いつまた発作が起きるか……。自分はそんな状態なのにあいつ、俺の出席日数のこととか、もうすぐ期末テストなんだから勉強しろとか、笑いながら言ってくるんだぜ。どうかしてるよな……」  真田さんも不器用な微笑を浮かべた。私は耐えきれなくなって両目を覆った。 「ごめんなさい……」  私が余計なことをしたせいだ。全部私のせいだ。  立ち止まって泣き出した私を見て、真田さんは戸惑ったようだった。 「だから……何であんたが泣く?」 「だって……」  私が悪いんです、と言おうとした時、真田さんの手がそっと伸びてきて、私の頭を撫でた。   「大丈夫だって」  彼はぶっきらぼうに、でも確かな優しさを感じさせる声で言った。 「悠も俺もまだ死んだわけじゃねえし、生きてりゃ何とかなる。新しいバイト先の当てがねえわけじゃねえからさ。今日もこれから面接があるんだ。だから──そんな心配するなよ」  私はそっと顔を上げて彼を見た。 「本当ですか……?」  真田さんは私を励ますように小さく頷いた。 「……ああ」  なんて優しい人なんだろう。辛いのは自分と悠くんなのに、ただ心配して泣いているだけの私を励ましてくれる。  彼に比べて、私はどこまで卑怯なんだろう。  彼の大切なものを奪っておきながら、また彼から優しさを受け取ってしまって喜んでいる。そんな自分が、本当に悪魔のようだと思った。
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