真田家のピンチ

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「真田さん……私にできることがあったら何でも言ってください。真田さんのお力になりたいんです。どんなことでもします。真田さんのお役に立ちたいんです」  私は涙しながら訴えた。  お嬢様の私がただお金だけ渡しても、彼はもう素直に受け取ってくれないかもしれない。それどころか「貧乏人を馬鹿にしやがって」とまた怒らせてしまうだけのような気がする。  けれども、陰でまた余計なことをして彼の足を引っ張る結果になったらそれこそ大変だ。  彼が困っていることは彼に直接聞くしかない。  真田さんはただ静かに私を見つめていた。  とても綺麗な瞳だった。分厚いレンズ越しでも分かる、星のように澄んだ美しい瞳だ。 「あんた……いい人だな」  彼はにこりともしなかったけれど、しっとりとした温もりを感じる声をしていた。 「今まで仲の良かった現場の連中がさ、宮藤のお嬢様を怒らせた責任はお前にもあるって、手のひら返したように冷たくなって……無視っていうか、誰も俺のことなんか気にかけてくれなくなったんだ。それが結構しんどくて、一丁前に人間不信になりかけてたんだけど……あんたみたいに優しい人間もいるなら世の中まだまだ捨てたもんじゃないな」  胸が苦しい。  この痛みは罪悪感なのか。それとも、恋の?  分からないけど、真田さんから目が逸らせない。  「……人から親切にされたことがねえから、なんて言ったらいいのか分かんねえ。けど──ありがとう。今日、あんたに会えて良かった」  違う。  私はそんなふうに感謝される人間なんかじゃない。  あなたをどん底まで突き落とした悪魔のような女はこの私なんだから。    また涙ぐんだ私を見て、彼はそっとズボンのポケットに手を入れた。 「あんたに一つだけ、頼んでもいいか?」
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